

1200年代に生き、宋に留学して修行を積んだ道元禅師(どうげんぜんじ)という方がおられます。彼の著書「典座教訓(てんぞきょうくん)」の中でこう言っています。「食材を自分の眼玉の如く扱いなさい」と。つまり眼玉はとても大切なものですから丁寧に扱いますね。それと同様に食材も丁寧に無駄にせず調理しなさい、と諭しておられるのです。
末っ子がお寺さんの保育園に入園した最初の日の夕げに、小さな手を合わせ、
「本当に生きんがために、今この食を頂きます。与えられたる天地(あめつち)の恵みを感謝いたします」
と唱えてから「いただきま~す」と言って箸をとったことを鮮明に思い出します。2歳にも至らないうちから、大切なことを教えていただいたと感動しました。のちにお寺の友人から「本当に生きんがために…」は違うの、正しくは「本当に行ぜんがために…」なのよ、と訂正されましたが、小さい子供たちにわかりやすく、との園長先生の配慮であったのだと思います。まず形から入り、心は後からついてくる…と教育の基本を学んだのでした。今でもこのお祈りは家族全員が各々の所で行っているようです。
日常茶飯事の中にこそ、心身の健康を保つためのカギがあると思い知らされます。生活習慣病対策もメタボ解消のカギもここにあるのではないでしょうか。650年以上前に書かれた書物の中に、現代の私達に生き生きと訴えかけているものがあります。
昨今のあまりにも食材、料理を粗末に扱う傾向をとても憂います。自給率が云々と言う以前に、日々の食事にささやかではありますが工夫をし、知恵を使いたいと思います。
食材の出生から食卓にたどり着いた過程、そしていのちの完結を思いめぐらすひとときを1日の食事のなかで持つことは、平和への祈りにも似た素敵なことではないでしょうか。
※医食同源
病気を治すのも食事をするのも生命を養い健康を保つためで、その本質は同じということ

1943年高崎市生まれ。桐生市の郊外に在住。管理栄養士。日本家政学会食文化研究会部会、および、NPO法人 群馬の食文化研究会 所属。
長年、短大や専門学校で指導。退職後は、夫の作る季節野菜を中心に「肉や卵に頼らない食事」をコンセプトとし、手順・調味料のシンプルなレシピを開発している。数字だけではない「食事観」の必要性を感じ、今に生きる日本人の食べ方・生き方を模索している。
趣味はウォーキングと登山。
座右の銘はブリア・サバランの格言『どんなものを食ベているか言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言い当ててみせよう』

